HAPPENINGS
2019.08.02

第1回HAPPENINGS芸術祭レポート

前夜祭の盛り上がりを追い風に、6月22・23日(土・日)に開催した「HAPPENINGS」の芸術祭。初日の様子を通して、その魅力を紹介します。各部活の展示をはじめ、トークセッションに盛り上がった1日です。

開催時間から多くの来場者が集う芸術祭

JR中央・総武線「国分寺」駅南口から徒歩2分の会場「D-LAND LOUNGE」には、開催時間12時を過ぎ、多くの来場者が集まっていました。部活メンバーの知人・友人に当たる美術・芸術大生だけでなく、HAPPENINGSの芸術祭を告知で知った社会人が各部活の展示会場を観覧しています。

前夜祭に続き、来場者に作品を説明する部活メンバーの姿

前夜祭と異なり、芸術祭では1日2回のトークセッションが開催されました。初日は、紙部の顧問を担った高田唯さん(アートディレクター/東京造形大学准教授)と、多くのアーティストとのコラボレーションを仕事にする永井秀二さん(ビームス創造研究所クリエイティブディレクター)をゲストに迎えます。

 

高田唯「創造性の温め方」

HAPPENINGSは、主催企業のD-LANDが掲げる「Incubator of creativity みんなの創造性を孵化させ ときめき溢れる世界を創出する」というビジョンをカタチにした芸術祭です。部活メンバーは「やってみたいことをやってみる」というコンセプトにまっすぐチャレンジして、3ヶ月の作品づくりを続けてきました。

高田さん自身は、アートディレクターでありながら准教授として後進の育成に関わる教員でもあります。学生たちの「やってみたいことをやってみる」という気持ちと、どのように接しているのかに迫る、「創造性の温め方」というテーマでトークセッションは進みました。

高田さん「例えば、グラフィックデザインはどうすればうまくいくのか、といったことは、ゼミで教えていません。それ以前に、ぼく自身がどんなところに目をつけているのかという“観点の話”を共有しています。

観点というのは、200mlの紙パックの底面であったり、カップヌードルの成分表であったり、ちょっと変わったところを見ていてもグラフィックデザインに見えてくるし、アート的にもおもしろい、といったぼく自身のもの。そういった差異をコレクションして、観察することを続ければ、人生がほんのちょっと豊かになる、という目線で世界を見て、ゼミ生もおもしろいことを発見していけるようになったらいいなと取り組んでいるんです」

教員として、いろんなことを試しながら、ゼミ生のやる気が沸くスイッチを見つけたい。それが高田さんの教育姿勢です。

高田さん「良い部分を見つけて、『良い』って、ちゃんと言ってあげたい。一生懸命にやってきたのは事実なので、 学生の課題を見るときは良いところを見つけることから入ります。一生懸命かどうかは、表情や立ち姿でわかるんですよ。それでもわからなかったら、ぼくが理解できるところまで、ちゃんと聞く。なぜ、そういう表現をしたのかと。考えてきたことをしっかり受け止めたいのは、ぼく自身が感動したいからで、実際に感動することも多いんです」

学生は、ときに迷走しながら創作にチャレンジしているそう。そんなときに教員として、ゼミ生たちの創造性と高田さんはどのように向き合うのでしょう?

高田さん「迷走しているほうに向かっていくままでは、どんどん迷走していってしまう。だから、『例えばこんなことをしてみたら?』とか、『この本を読んでみたら?』とか、なんとか迷走から引っ張り出してあげようとします。抜け出せると、ホッとする表情を浮かべてくれるんです」

紙部の展示を見守る高田さん

顧問を担ったHAPPENINGS「紙部」でも、基本は同じ。ただ、大学の外に出た部活ならではの魅力もあったと言います。

高田さん「大学の課題だけでは自己満足の世界に終わってしまいがちだけど、紙部にはその先があって。紙加工のプロと一緒に、実際に商品を作り、流通させることや販売していくことも考えていきました。それは、みんなにとって良い経験。大学を飛び出した部活のメリットなのだろうと思います。

部活メンバーは、今回協力してくれた加工会社を巡って、紙加工の魅力を理解しながら僕たちが想像もしない素晴らしいアイデアをたくさん提案してくれました。改めて学生の柔軟な発想と熱心な姿勢を目の当たりにして、感動しました」

 

永井秀二「ビームスのカルチャーはなぜカッコイイのか」

やって終わりにしないところは、HAPPENINGSの特徴です。それは、美大生をはじめ、クリエイターのインキュベーションに取り組むD-LANDが主催している意味でもあります。

そんなD-LANDにとって、アーティストやデザイナーなど、多くのクリエイターとコラボレーションを重ねる仕事に就いてきた永井さんは、まさに先輩。事前に部活メンバーの声を聞いて設けた、「ビームスのカルチャーはなぜカッコイイのか」というテーマに基づき、永井さんにはクリエイターとのコラボレーションについて尋ねていきました。

永井さん「ぼく自身は、今回のテーマのように、ビームスのことをカッコイイと考えたことはありませんでした。それは、いろんなアーティストが関わってくれているのが、今のビームスだからなんです」

永井さん自身、たくさんのクリエイターとコラボレーションすることで、社会や文化に影響を与える事業をいくつも立ち上げてきました。代表例として、"ART FOR EVERYDAY"をテーマに世界で生み出されているアーティスティックなグラフィックをTシャツというキャンバスに表現、発表する「BEAMS T」や、"東京"から生み出されるアート、デザイン、カルチャーなど、混沌とした東京らしさを通じて現代の日本文化を世界に発信する「TOKYO CULTUART by BEAMS」が挙げられます。

特にBEAMS Tでは、クリエイターとともにTシャツを手がけていくなかで、多くの声が届き、クリエイターにはメイン活動である作品や広告デザインなどの発表機会が足りていないことを知りました。それを踏まえて誕生したのが、クリエイターの活動自体を見せていくスペースとしての「TOKYO CULTUART by BEAMS」だったのです。

永井さん「ビームスという会社がアートやカルチャーもしていける企業体質だったからこそ、ファッション以外の方々にも支持してもらえる活動ができているのだと思っています」

アートやカルチャーにまつわる活動を続ける永井さんは、今も新たなクリエイターの作品を観に出かけています。美大生にとっては、永井さんのような人が作家としての道を切り開いていくうえでキーパーソンの一人になるはず。作家として生きるために、個展を開くのがいいのか、作品を持ち込むほうがいいのか。永井さんがどんな風にクリエイターの作品をチェックしているのかを知ることは、作家として世に出るためのヒントになりそうです。

永井さん「ぼくたちからすると、個展よりもグループ展を優先しています。グループ展なら、知っている作家以外の作品を見ることができる。すると、ほかの作家とのつながりもできます。グループ展であれば、集客も増えますし、グッズ販売もしやすいから、仲良しな友達と一緒に催すことは有効だと思いますね」

部活メンバーと交流する永井さん

新しいクリエイターの作品を見るなかで、実際に依頼したいと感じるクリエイターの特徴はあるのでしょうか?

永井さん「いくつかポイントはあります。例えば、お願いしたい仕事のイメージにぴったりな作品かどうか。あるいは、作品自体にオリジナリティを感じるかどうか。それと意外かもしれませんが、作家本人が魅力的で、コミュニケーションを取りやすいかどうかといったこともポイント。こちらから一方的に頼むのではなく、作家からも意見を言える相互関係を築けたら、1回目が成功して以降の依頼もお願いしやすいからです」

部活メンバーや美術・芸術系の学生がビームスとコラボレーションをしたい場合、ふだんからどんなことに取り組んでおくといいのかも質問しました。

永井さん「まずは毎日、作品づくり。そして、いろんな作品を見ること。SNS以外のリアルなコミュニケーション力を高めることは大事ですし、オリジナリティを見つけることも重要です。そして、自己プロデュースできることも必要だと思います。つくること自体が楽しいのはよくわかるんですが、世に出しても買ってもらわなければ次がない。一生、続けていくためにも売れていこうとする、勉強や鍛錬は大切ですよ」

芸術祭では来場者が作品を持ち込む様子もちらほら

 

芸術祭を終えて

初日のトークセッションで、永井さんはこんなことを言っていました。

「美大生になれた。それだけで、想像力や独創力、ひらめきが一般の方々よりも優れている証。イノベーションを起こすような存在になっていけます。だから、作品づくりといっても、ファッションや音楽のように才能を発揮できるステージは多いことを忘れないでくださいね。せっかく、特殊能力を持っているんだから、活かさないともったいない!」

永井さんの言う通り。やりたいことをやってみる「HAPPENINGS」の先には、部活メンバーのクリエイティビティを存分に発揮できる社会が待っています。6月19日より部活メンバーを募集している第2期でも、作品をつくり、世に問うことまでつながっていくHAPPENINGSにご期待ください。

第1回HAPPENINGSの様子は動画でも記録されています(写真は記録映像を残す映像部の二人)